贈答の手紙の書き方について

贈答すなわち品物を贈ったり、これに対しておかえしをしたりするということは、これをその儘(まま)直ちに虚礼だとか無意味だとかいって片づけてしまうわけにはいかない。時と場合によっては絶対必要なこともある。勿論なるべく虚礼にならないように注意しなければならないが贈答そのものは全然廃止すべきではない。そこでこの贈答につきものの手紙がここにいう贈答の手紙となるのだが、手紙の性質上、贈答の手紙は大体に於いて贈る品物が主で、手紙の方はむしろ「つけたし」のようなもの。その書き方も贈る品物や贈り先によっていろいろ違ってくる。

一、品物を贈るのはどういう意味で贈るのか、その意味をハッキリ書かなくてはならない。でないと贈り物をすることによって先方に媚びるようでもいけないし、又、得意気であってもよくない。まして恩をきせるようでは尚更よくないし、又こちらでは結構なものだと思っても、先方では案外満足されない場合もあるから、あくまでも謙遜な心持で、失礼に当らないように書かなければならない。

二、贈る品物について何やかやと述べ過ぎたり、勿体をつけたりしないようにすること、といって、進物のことは必ず本文に記さなければならない。本文に書かずに添書、袖書に記すのはどんなに親しい間柄でも失礼とされている。

三、到来品 ― よそから貰った品物で珍らしいものを贈る時は「到来に委せ」「遠来の品」と正直に書く。贈る方は「お端分(はしわけ)いたし」という。貰った方は「お裾分下され」とする。必ずこの場合には「お」の字をつける。

四、目上に対する贈り物の手紙には「到来に委せ」とは書かない。あり合せものを進上するという意味にもなり失礼に当るから。又、目上に贈る時は「進上」「捧呈(ほうてい)」「お目にかけ」などとし「差上げ」の語はさける。目下には「差出し」と書く。

五、郷里の名産などを贈る時に添える手紙には、名産の由来が記してあると受けた方ではそれだけ興味かおる。それにより自分の郷土を紹介することにもなり、相手の人はそれだけ知識を増すことにもなる。

六、品物を届ける時にぽ「何々の便で送ったから」と郵便によったか汽車便によったかなどをはっきり書く。品物に手紙を添えて届ける場合は「菓子一折」とか「使(つかい)に持たせ」とか数量なり届け方なりを明細に書くこと。

七、贈りものを受けた時には、その返礼はすぐにしないで、何れ折を見てすべきであるが、礼状だけはすぐに出さなげればならない。かなり親しい間柄であっても、贈った方から着否(ついたかどうか)の問合せを受けて始めて礼状をかくようなことがあってはならない。

八、相手とその品物の如何によって、次のような心遣いが大切である。

(イ)老人に植木や草花を贈るのは非常に喜ばれるものであるが、その時には、やさしい、おとなしい、いたわって上げる気持をあらわすように書きたい。

(ロ)歌をよむ、俳句をつくるような相手なら、一寸気どった文学的な文句の挿入もきざでない程度なら面白い。

(ハ)たとえば新茶など贈る時、茶の製造法など知らない相手なら、茶つみの情景を書くとか絵はがきなど添えるという心づかいもあっていい。

(ニ)結婚のお祝い品をいただいたお返しに、記念写真を贈るのが近頃流行しているが、そういう場合には写真のうらに結婚の年月日と両人の名を書く。

(ホ)病人に品物を贈る時には、力強い言葉を用いて元気をつげること。

花を持たせて

八重桜が満開です。今度の日曜ぐらいと思っていたのだが、四五日の暖気でもう見事に咲いてしまいました。明日を待たぬ美しさ、せめて一枝なりとお目にかけたく使に持たせました。一つは祖父の自慢から、是非お届けしろとの命令もあったのです。お閑でしたら明日にも遊びに来て下さい。祖父は縁側でもがもがして花ばかり見ています。

使を待たせての乱筆です。御判読願います。頓首(とんしゅ)

花を貰って(上返事)

見事な満開の八重桜、御態便(わざわざの使い)を以て御恵与に預り、思いがけない感謝であります。只今さしかかり来客かかるところを、床の間さびしく、何がなと思っていました折柄、誠に天来の賜わり物であります。早速挿し入れました。

濃艶(のうえん)なほの紅の色、姿、おかげ様で成園の「なこその関」の一軸が大いに引立ちました。名は楊貴妃か、牡丹桜か、普賢象か、家人の間でとりどりに話し合っています。お言葉に甘え、明日御礼かたがた参上、御祖父様に何かとお教え頂きたいと思います。何とぞよろしく御伝えのほど願い入ります。

お使にお待ち願っての走り書き、ただただ御礼のみであります。匆々(そうそう)

野遊びから帰って

姪たちを連れて一日武蔵野を散歩しました。酒と仮装騒ぎの花の名所よりも、郊外の方がどんなに静かで、しかもほんとうに春らしいかわかりません。ほの暖かい風に吹かれながら、心あがりのした鳥の声を聴きながら、生命そのもののような輝やかしい緑の若草を眺めている心持、それは本当の春そのものです。

それでも姪たちはやはり女だけに功利的だと見えまして、摘草をしたり、土筆を風呂敷へ抱え込んで来たり、嫁菜を苦労して捜したりです。しまいには私も手伝って土筆をとり集めたのが、実は意外の大猟となりましたので、母に勧めるだけを残してお福分をいたします。はかま取りのお手数は恐縮ですが、一度は野趣を膳に上されるのも御一興(いっきょう)かと思いまして、姪にことづけました。御笑味(ごしょうみ)下されば幸甚です。頓首

土筆を貰って(上返事)

御野遊びの御感想、俗塵(ぞくじん)にまみれながら働いている小生には、全く救の声のように嬉しく思われました。

又お姪御さま方の、さすがにと思われるお台所ぶりのお土産をたくさんお裾分頂きまして、誠に有がとうございました。これから女中に袴をとらせ早速夕食に賞味いたします。

お姪御さま方によろしくよろしくお礼の旨お伝えを願います。

わざわざのお使で恐れ入りました。敬具

釣の獲物を

天地一朗。あつらえ向きの釣日和早速××へ行って来ました。本来慈悲心に富む故か、外の連中は盛んに釣っているのに、小生の針にはその三が一もかからず、夕暮まで水に浸りつくした獲物僅に無量二十三尾。目の下一尺という奴を ― こんなのはお化の国の鮎でしょうが ― 一尾でも引上げたいと念じましたが駄目。どれも小粒ながら味は却ってましな筈ですから、御夕膳に間に合わないかも知れませんが、とにかく獲物の半ばをお届けいたします。右のみとりあえず。以上

鮎を貰って(上返事)

一日の御清遊の獲物、お心にかけさせられ、お福分の栄に預り、千万感謝します。淡彩、纎雅(せんが)、芳香を放つかとまでの十二尾、おろそかには頂けません。鮎は○○あたりよりもXXのが味がよいと聞いています。明朝の食卓をたのしみとしています。

久しく繁忙、日曜も門外せず、悠々御快適の御日常を羨望するのみです。

とりあえず御礼かたがた右まで。敬具

新茶を贈る

手慰(てなぐさ)みの茶園、どうせろくなことはしていませんが、今年は殊の外発芽よろしく、試みに一番を摘んで手製をやって見ました。若干の風味と若干の香気はありますが、果してお茶になっているか、それとも無茶か、御笑味を願います。裏山は燃えるような青葉で、ひたすら生命の緊張を覚えます。一度御来遊下さらば幸甚です。以上

新茶を貰って

お千製の新茶、沢山に御恵贈、感謝の至りであります。無風流漢には専門的の翫味(がんみ)も出来ませんが、軟か味と円味の申し分のないものと思いました。父に話しましたら、それは珍らしいといって、わざわざ近所から水を取り寄せ、親子して頂いたことでした。厚く御礼を申し上げます。敬具

到来品を贈る(婦人用)

本日親戚の者、水戸から出て来まして、梅屋の納豆を持って参りました。お好きずきのありますことで如何かと存じましたが、到来に任せ、御主人様の御酒のお肴にもと少々持たせました。右のみをとりあえず。以上

水戸納豆を貰って(上返事婦人用)

わざわざ御専使を以て水戸梅屋の納豆御届け頂き御心入れのほどまことにありかたく、山々御礼申し上げます。主人の大好物でございます。けさは出勤のあとでございますので、帰りましたらどんなに喜びますことかと、その顔のほころびを見るように思われます。

とりあえず御礼のみでございます。いずれお目もじの上万々でございます。かしこ

中元を贈る

拝啓 いよいよ御清祥大慶の至に存じ上げます。

お中元と申すほどの品ではありませんが、一夕のお暑さ凌ぎの料にもと書留便に託し粗品XXX少々拝呈いたしました。御笑味下さいますれば本懐の至に存じます。

この上ながら皆々様御自愛専一に祈り上げます。敬具

(註)中元というのは本来は陰暦七月十五日のこと。上元は正月十五日、下元は十月十五日、中元は一年間の無事息災を祝い、盂蘭盆(うらぼん)(お盆のこと)の行事をして祖先の霊に供養する。また中元の贈物そのものを、「中元」という場合もある。今は暑中見舞の代称となっている。

中元を贈られて(上返事)

拝復 炎暑いよいよきびしくなりましたが、御一同様御揃い御健勝何よりの事と存じ上げます。

本日は御心にかけさせられ、御鄭重なる御中元頂き、恐れ入りました。私方はいつも失礼しておりまして申訳ございません。別封の品軽少ながら御礼の印までに御目にかけます。御笑留下さいまし。

右暑中御見舞かたかた御礼の御挨拶申し上げます。敬具

お中元に添えて(婦人用)

美子ちゃま、和人ちゃま、日光浴着だけでさぞたのしげにお遊びでしょう。手製の小テントながら水デッポウ、砂いじりの屋根に可愛いお二人が使って下さるさまを嬉しく想いつつお送り申しました。夏中オンモから充分健康を吸いためて下さいませ。寒ざらしの白玉粉、滝の糸ソーメンを少々おともさせました。これに母君のお心をこめて頂いて、テントのお二人に涼しさを差上げて下さいませ。お中元のおしるしまで。

歳暮を贈る

年末定めしお忙しい事と存じ上げます。一度お伺い致さればと存じながら、又本年も暮れてしまいました。来年こそはと懺悔懺悔であります。お歳暮の印までに生鮭一尺(鮭の場合は一尺とか一隻と呼ぶ)をお届け申し上げます。本場物という触れ込みですがどんなことでし上うか。御笑納下さいますれば幸甚に存じます。敬具

歳暮を贈られて(上返事)

御無沙汰のお詑は当方よりこそ申し上げねばなりませんのに、お言葉却って恐縮に存じました。

殊には又、いつもながら御鄭重なお歳暮を頂きまして恐縮一層を加えます。寸志、御礼の印としてお目にかけます。御笑留下さいますよう。どうぞ皆々様御揃い御機嫌よく御加寿の程祈り上げます。敬具

お歳暮に添えて(婦人用)

いつの間にか今年も押しつまってしまいました。暮れの中是非うかがうつもりでおりましたが、末の子が風邪をひき。むずかりますので連れても出られず、お目にかかるのは来春になりそうでございます。いつぞやお約束しました雪子ちゃんの手袋やっと編み上げましたので、お歳暮のおしるしにお送りいたします。うちの上の娘のと同じピンクのアンゴラにいたしました。上手に出来ませんでしたが、学校通いにおつかい下さいまし。さようなら

クリスマス・プレゼソトを(婦人用)

いよいよクリスマスが来ますのね。
今日久しぶりに銀座に出てみましたら、雪をかぶったクリスマスーツリーが方々の店に飾られる街となっていました。サンタ・クロースも、不器用なのやすばらしく大きいのが出来ていました。
アメリカ式の百貨店として有名な小松で見つけました柱懸(来年のカレンダーが貼付してある)とカード、さすがにちょっと面白い意匠だと思いましたので、あなたと森田さんへのプレーセントに求めて来ましたの。お気に入ればありかたいと思います。

二十四日には午後六時頃から私方で若い方が大分お集りのはず。みな様で楽しく遊びたいと思っています。ぜひお出で下さいまし。母もお待ちしています。

どうぞおからだ御注意なさいますよう。

写真に添えて

別封写真、御笑覧願います。最近の私です。年々誕生日には撮るのが道楽で、三枚の内二枚を年々人を変えてお贈りしていますが、今年はかなり出来がいいので、本人聊(いささ)か得意、規則を破って五枚焼増をした位ですから、讃辞も焼増式に願いたいものです。わざと浴衣の粗いのを着てぬッと立ってみたのですが、さすがに光源氏の子孫かも知れず、どこか公達(貴公子)のお忍びという姿に見えるではありませんか。呵々(かか)(からからと高い声で笑う)

何だか少々気かぶれたような書き方で失礼。右謹んで御挨拶を添えます。

写真を贈られて(上返事)

謹んで御挨拶とやらの広告写真謹んで拝見。三年ぶりにお目にかかるわけで、実際おなつかしく思いました。源氏はラジオの「架空の人物」に出るだけのこと、子孫のあるはずもなく、公達か否かも怪しいものですが、ただありのままの御軽装が却って天真欄慢(天真はかざらぬこと、欄慢は明かにあらわれるさまで、つまりかざりも気取りもなく、ありのままということ)で今にも何か話しかけられるかと思われるのが一段と愉快です。
これは掛値も割引もない讃辞です。

そのうち私のもうつしてお目にかけます。右とりあえず御礼まで。

手製品を贈る(婦人用)

いつの間にか美しい若葉があふれてしまいました。若葉のこぼす陽の光のなかで編みっづけたマクラメの手さげ、只今でき上り、すぐお送りいたしました。あなたのお好きなコバルトブルーです。お買物用にお使い下さいませ。あなたがお持ち下されば、きっとたからの袋のように、たのしいものが、このなかからうまれ出そうです。私もこれをつくっている間、しみじみとたのしゅうございました。遠い遠い北海道のみどりにかこまれたあなたの新家庭をしのびつつ。

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コメント

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