暑中見舞

外の炎暑の美しさ(婦人用)

 さすがに暑くなってまいりましたが、皆様お障りもなくいらっしやいますか。御地また珍らしい旱天(かんてん、日照り続きの天気)だと聞くにつけ、案じ上げております。私どももどうやら無事、暑い暑いとしきりにいうことでまた元気も出るようで、ひとときの暇をぬすむ昼寝も、もう少しは許される気がいたし、横になって眺むる外の炎暑の美しさなど、おすすめするのは叱られますかしら。姉上様にもついでによろしく。お近いのがうらやましく存じます。

妻の実家から友へ

 ずいぶん暑いね。別に変りのないことと思う。
 関西は一体に東京より五六度は確かに暑い。岡山と来たらことにひどい。つまらない、沈滞した小都会だが、妻の里は例の日本三公園の一である後楽園と旭川とを眼下に見るところにあるので、実は家内の母の病気看護に来ているのだが、ちょっとしたところへ避暑にでも来ているような気がする。

 旭川には東京などには滅多に見られない清冽な水が流れて、日中でも反射暑からず大小の黒ん坊が無遠慮に泳ぎ廻るというのでもなく、投網か竿釣の人が二人三人見えるぐらいで、水上遙かに得もいえぬ涼風を送って来る。

 君は夏が嫌いの方だったが、別に暑さにもめげず、相変らず気焔(きえん)を揚げていることと思う。もしそうでなければ国家のために悲しむべし。近況を知らし給え。

 奥さんによろしく。

夕風が渡る頃ともなれば(婦人用)

 雨もない毎日の烈しい暑さ、いかがお暮らしでございましょうか。山か海か、スポーツに鍛えた皆様は、さぞかし選択にお迷いのことと噂申しております。私どもは相変らず騒々しい町中の小さな借家住い、全く気の休まらない毎日でございます。それでもお蔭様にて病気もせず一同元気で貧乏を享楽しております。ついでの節はどうぞお立寄り下さいませ。何はなくとも家庭菜園の名残りの地面が少々、とうもろこしの葉末に夕風が渡る頃ともなれば、皆様のお口には珍らしい手料理の一つも差上げられようかと存じます。どうぞ皆様によろしくお伝え下さいませ。かしこ

残暑見舞

 秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる ― という敏行の名歌は、一体その昔の何月何日頃に詠んだ実感だろう。土用明けといえば立秋、立秋といえば秋来ぬるわけだが、風の音に驚かれるどころじゃない。この頃は風が吹けばかえってむしむしして一層苦しい。暑中の風は愉快で清潔だが、残暑のそれは鈍重で埃くさい。何だかじっとりした暑さじゃないか。

 君が旅行から帰ったことはほのかに伝え聞いた。しかしその後の消息が知れないので、あるいは病気でも持って帰って来たのじゃないかと心配している。僕は丈夫で元気だ。安心してくれ給え。そのうち一度会いたい。右ちょっと。

(注) 「敏行の名歌」― 敏行は藤原敏行、この歌は「古今集」の中にあるもの。

残暑に入ってからの暑さ

 お見舞ありがとう。実際残暑に入ってからの暑さったらないね。ことに避暑ではないが、久しく旅行をしていたので、帰ってからの東京が一段と暑苦しくてたまらない。お察しの通り、旅行先で胃腸をこわしたので、予定より早く帰京したのだが、東京は医者は不自由でない代りに暑さに閉口する。こんな事ならまだ旅先で養生していた方がましな位だ。

 兄は相変らず頑健 ― 実際兄には頑健という語がよくあてはまる ― で結構。僕は病気といってもどっと床に就ているわげではないから、遊びに来てくれ給え。いささか無聊(ぶりょう、たいくつなこと)に苫しんでもいる。

二百十日を前に

 九月も近づき、さすがに少しは暑熱も薄らぎまし。だものの、昨日今日凰の冷気、空ゆく雲もただならぬ様子に見えます。厄日つ一百十日のこと)を控えてのこと、当然の現象ながら、何とかくすでに脅威を感じます。貴地方は昨年不作のあとを御苦心のことと思いますが、明日の御無難を祈っております。小生はこの夏休をアルバイトに過ごし、帰郷の機を得ませんでしたが、元気でやっておりますから御安心願います。本家にもついでによろしくお伝え願います。御自愛専一に。以上

残暑やがて秋冷(上記の返事)

 お見舞恐縮でした。一番風としては本日の模様先ず先ず平穏、作も順調で、一同ほっと安心しています。庭では咲き残りの朝顔が、夜来の雨に無惨な残骸をさらしていますが、野には一面に嬉々たる露あり、波ありというところです。研学、アルバイト、御多忙の中をはるばる東都から御心配下さるなどは、農村に在るものにとって大慰安であります。ありがとう存じます。

 御本家は皆様御無事です。私方も病気とは全く縁のない連中ばかりです。御安心願います。残暑やがて秋冷、どうぞ御大切に。敬具

暑中見舞などの類句

○日に増し炎暑きびしい昨今。皆々様にはお障りもなくお過しでいらっしゃいますか 
○今年の暑さは格別きびしいでますが、皆様にはいかがお暮しですか 
○お障りもなく機嫌よろしくいらっしゃいましょうか 
○近年まれなる暑さに、丈夫自慢の私でさえ堪えがたい昨今、御機嫌いかがと御案じ申し上げております 
○三伏の酷暑とやらの文字通り、草木も生気を失うばかりの炎暑がつづいております 
○道路のアスファルトも流れるほどの暑さ 
○降って私方お蔭様にて一同無事に過しておりますから、他事ながら御放念のほど 
○まずは暑さのお見舞まで 
○暑さ加わるばかりですから、なにとぞ皆々様御自愛専一のほど祈り上げます 
○三伏の暑さという事実を越えたこの頃の暑さ 
○今年の暑さは凌ぎかねます 
○急に暑さが増し凌ぎかねますが別にお変りもございませんか 
○盛夏の候 お変わりなくお過ごしでしょうか。
○炎暑日に加わりおります昨今
○十年ぶりの暑さとか申して
○炎暑まことに厳しく
○炎暑にもおいといなく
○毎日の暑さに怠けてばかりいます
○まるで文字通りの焦熱地獄です
○お蔭様で私方一同無事にございますから御安心下さいませ
○御わたり皆様には御変りございませんか
○厳しい暑さでございますが
○土用にはいりましてから急に暑くなったようでございますが
○何とぞ十分御身おいといのほどをお祈りいたします
○お見舞に預りありがとうございます
○御健勝の由にて何より御喜び申しあげます
○小生も何とか暑さと闘っていますから御安心下さい
○御同様に、この暑さには堪え難く
○きびしい暑さにもめげぬ御一同様の御様子を拝し
○暑さにかこつけてつい御無沙汰していました折柄
○この上とも御健祥を心からお祈りいたします

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