八、賀寿祝(がじゅいわい)

還暦の賀を祝う

拝啓その後は御無音に打過ぎまして何とも申訳のないことでした。皆々様には御揃い御健祥何よりと存じ上げます。分けても御尊父様には、皆様の御孝養の裡に本年六月五日を以て還暦に逹せられ、钁鑠(かくしゃく….老いてますます盛んなさま)壮者をしのぐ御元気の由、まことに御めでたく千万御喜び申し上げます。還暦は「暦二還ル」ことゆえ、丁酉よりまた六十一年目の丁酉(ひのととり)に還(かえ)られることでもありますが、なお「暦ヲ還ス」と読めば暦を逆にして満六十歳よりは後へ後へと年をとることになり、つまり若返られるわけでありまして、一段の御壮健を加えられますことと、慶祝に堪えません。しかしまだ古稀の寿賀あり、喜寿、米寿、更に鶴寿(かくじゅ)、亀寿(きじゅ)へと、前途まだまだ幾つものお祝いが待っております。長く長く御元気のほどお祈り申し上げます。

御祝の品は既製品で失礼とは存じましたが早い方がいいと思いましたので、お座布団一枚、三越から送らせました。ほんの寸志でございます。末筆ながら皆々様いよいよ御団欒(ごだんらん….親しいつどい、楽しいんつまり)御幸福にお過しのほど御祈り申し上げます。敬具

(註)賀寿というのはながいきをした人を祝うこと、これにいろいろある。還暦、生れてから六十一年目の誕生日に行うもの。ほんけがえり、生れた年の支干に再び立ちもどること。十干十二支。十二支というのは「ね、うし、とら、う、たつ、み、うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、い」のこと。十干は「甲きのえ、乙きのと、丙ひのえ、丁ひのと、戊つちのえ、已つものと、庚かのえ、辛かのと、壬みづのえ、揆(き)みづのと」のこと。

旧師の古稀を祝う

拝啓 新緑清涼の候となりまして天地一朗の感に恵まれております折柄(おりから)、先生にはこの十五日を以て古稀の御寿賀をお迎えになります由、誠に慶祝の至に存じます。御葉書には「人生茫乎(ぼうこ)として夢の如し」とございますが、まだまだこれから喜寿、米寿のお祝もありますし、鶴寿(かくじゅ)、亀寿(きじゅ)のお祝もございます故、まだ前途にも多くの夢をお持ちにならぬばかりません。それに亀寿までの祝からいえば、還暦は小学校、古稀は中学校というところですから、大学教授をなされた先生は、喜寿の高校を経て米寿の大学までは進まれる必要がありますし、鶴寿、亀寿の大学院へもお進み下さるようお願いいたします。何にしてもおめでとうございます。こういう田舎におりましては心利(こころき)いた御祝の品もございませんので、御元気な先生には失礼かと思いますが、真綿を少々別封書留小包便でお送り申し上げました。真冬にお用い下さいますれば、ありかたいことに存じます。

失礼な文章になりまして申訳ございませんが、心からの御祝を捧げるつもりで書き出したものです。どうぞおゆるし願い上げます。敬具

(註)古稀というのは支那の有各な詩人杜甫の詩に「人生七十古来稀」とあるところから七十歳の誕生日を古稀という。ついでに喜寿は喜の字の草書体は七十七と見えるので七十七歳のお祝い。米寿 ― 米という字を分解すると八十八になるので八十八歳のお祝い。鶴寿 ― 九十歳。亀寿 ― 百歳。

古希の夫人を祝う(婦人用)

あなた様にはこのたび古稀の御ことほどをお迎え遊ばされました由、まことにおめでたくお喜び申し上げます。御一家の御幸福に、またこの上なきお喜びの日をお迎え遊ばされましたことは偏えに長年月の御摂生と御奮闘の賜かと存じ上げます。荒々しい世相にもめげずいよいよ御健勝の御様子に承り皆様方もいかぽかりお喜びのことかと蔭ながらお噂申し上げております。この上とも御自愛のほどお祈り申し上げます。先ずは謹んでお喜びまで。かしこ

祖父の賀寿を祝われて

只今は御丁寧なる御祝詞を頂きました上に見事な御品をお祝い下さいまして誠に有がたく、祖父は勿論、一同の喜びはこの上もございません。仰せのとおり、とりわけ丈夫でもない祖父が今日までながらえて、皆様のお祝いを頂けることは夢のようでございます。せめて丈夫なうちにもと、来十八日夕五時からいささかの祝宴を催すことにいたしました。御多用とは存じますが、まげて御出席を頂き昔話でもお聞き願いたいと一同お待ち申して居ります。取敢えずお礼かたがた御案内まで。何卒皆様にもよろしく御伝え下さい。

賀寿祝の類句

賀寿祝を出す場合

○還暦の御寿を迎えさせられ
○御祖父様にはめでたく古稀に逹せられ
○天寿とは申せ日頃の御節制
○近く賀宴を御催し
○全く老を知らぬ御元気
○世にも稀なる御長寿
○御尊父様御還暦の御誕辰を迎えさせられ慶賀の至りに存じます
○今なおかくしゃくとして壮者を凌くが如きお元気
○六十一年の長い星霜の御奮闘の賜として今日の御安泰をつくり出され
○華甲(かこう….還暦に同じ六十一歳)の御寿宴にお招き下さいまして
○御尊父様老来いよいよ御健祥にて今日古稀の賀に逹せられ
○お可愛いお孫様逹にめぐまれて
○古稀(七十歳)の御ことほどをお迎えになりましたそうで
○すべて長の年月の御奮闘と御摂生の賜かと存じます
○若き人も及ばぬ御元気の御様子
○ただただ喜ばしくめでたく存じあげます

○懸車(けんしゃ….喜寿に同じ、七十七歳)の御祝いおめでたく
○これからまだ色々のお祝いを重ねさせられますようお祈りいたします
○御一門の御喜び彌栄(いやさか)えまことにめでたききわみと存じます
○御厳父(おげんふ)様八十八回の御誕辰は古来めずらしい御高寿にて
○世にもおめずらしき御長寿卒(九十歳のこと)の御齢重ねさせられ
○御一統様もさぞかし御満悦の御ことと存じあげます
○私の手製で不出来ではございますが、お祝のしるしまでにお目にかけます
○粗品ながら祝賀の表象として御清覧に供し度
○書余は賀筵(がえん)の節親しく御祝詞申しあげますが貴兄よりもよろしく御芳声(ごほうせい)下さいますよう

賀寿祝の返事を書く場合

○御蔭にて老いの身を恙(つつが)なく労(いたわり)り
○小宴相催し一献差上げたく
○本当に命があると言うだけで
○御鄭重なる御祝詞並に佳品御恵贈に預り洵(まこと)に恐縮いたしました
○空しく犬馬の齢を加うるばかりで何の功績も無く
○御祝詞却って痛み入ります
○ほんの心ばかりの祝宴どうぞ御光来(ごこうらい)下さいますよう
○何分とも御承知の通り高齢でございますから、せめて丈夫なうちにもと思いまして
○いささかの祝宴を催すことにいたしましたものの
○その節は堪能のお謡一番(長唄一段)でもぜひお聴かせ下さいますようお願い申しておきます

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